社員が社用携帯を紛失した際、修理代や端末代を全額請求できると思っていませんか。
結論から言うと、全額請求できる根拠はなく、過去の判例では損害額の25〜50%程度が現実的な上限とされています。
この記事では、経理の現場で長年コスト管理に携わってきた視点から、社用携帯紛失時の損害賠償請求の考え方を整理します。
- 全額請求が認められる法的根拠はない
- 判例上の上限は損害額の25〜50%程度
まずは、会社が社員に対して損害賠償を請求できるのかという基本から確認していきましょう。
「全額請求できて当然」という思い込みが、トラブルの発端になることも少なくありません。
正しい知識を持つことが、無用な社員とのトラブルを避ける第一歩です。
会社は社員に損害賠償を請求できるのか?
損害賠償請求の根拠は、労働契約上の債務不履行や不法行為といった民法の一般規定です。
労働基準法に損害賠償請求そのものを禁止する条文はなく、実損害の範囲であれば請求すること自体は可能とされています。
実損害の範囲での請求が可能という前提は、ルール作りの出発点になります。
あらかじめ賠償額を決めておくことはできるのか?
労働基準法16条により、契約時にあらかじめ賠償額を固定して定めることは禁止されています。
「紛失したら一律3万円」といった規定は、この条文に抵触するおそれがあります。
規定を作る際は、専門家に相談しながら文言を慎重に検討することをおすすめします。
- 賠償額の固定は労基法16条に抵触しやすい
- 自己流の条文は違法規定になるリスクがある
- 賠償額を事前に固定するのは違法リスクあり
- 実損害の範囲での請求は可能
社用携帯を紛失した際の始末書の書き方は?例文と記載のポイントで紹介した対応とあわせて、賠償ルールも整理しておくとよいでしょう。
始末書と賠償ルールを別々に運用すると、対応にばらつきが生まれやすくなります。
両者を一体で整理しておくことで、担当者が変わっても一貫した対応ができます。
- 始末書と賠償ルールは一体で整理するのが望ましい
- 対応の一貫性がトラブル予防につながる
就業規則に全額弁償と書けば有効になるのか?
就業規則に全額弁償と明記していても、実際に請求できる金額は裁判所の判断で減額される可能性が高いとされています。
規定があるからといって、そのまま全額が認められるわけではありません。
過度に厳しい規定は、かえって社員のモチベーション低下を招くこともあります。
- 全額弁償の規定でも減額される可能性が高い
- 厳格すぎる規定は社員の士気を下げかねない
では実際の裁判では、どこまでの賠償額が認められてきたのでしょうか。
裁判例を知ることで、自社のルールが現実的かどうかを判断する材料になります。
過去の傾向を踏まえたうえで、規定の見直しを検討する会社も増えています。
- 就業規則の全額弁償規定は減額されやすい
- 過去の裁判例が規定見直しの参考になる
過去の判例ではどこまで認められているのか?
判例上の上限は、損害額のおよそ25%程度にとどまるとされています。
この水準を知らないまま就業規則を運用していると、思わぬ紛争に発展することがあります。
まずは代表的な判例から、その考え方を確認していきましょう。
代表的な判例にはどんなものがあるのか?
茨城石炭商事事件や大隈鉄工所事件といった最高裁判例では、信義則を理由に賠償額が損害の4分の1程度に制限されました。
会社側の管理体制の不備も、減額の理由として考慮される傾向があります。
判例の考え方を知っておくだけでも、社内ルールの妥当性を見直すきっかけになります。
- 最高裁判例で賠償額は損害の4分の1程度に
- 会社側の管理不備も減額理由となり得る
信義則による減額という考え方は、賠償ルールを設計するうえで欠かせない視点です。
一方で、社員の過失の程度によって結論が変わる点にも注意が必要です。
過失の軽重を見極める視点も、賠償ルールには欠かせません。
故意や重大な過失がある場合はどう変わるのか?
故意や重大な過失が認められる場合は、通常の過失より高い割合の賠償が認められやすくなるとされています。
ただし故意・重過失の立証は容易ではなく、個別の事情によって判断が分かれます。
過失割合の判断を会社が独断で行うと、後にトラブルの火種になりかねません。
- 故意・重過失は賠償割合が上がりやすい
- 立証のハードルは決して低くない
給与から天引きすることはできるのか?
給与天引きの可否は、労働基準法24条の全額払いの原則によって制限されています。
給与は全額を支払うことが原則であり、例外は限定的にしか認められていません。
この原則を理解しないまま天引きを行うと、法令違反になるおそれがあります。
- 給与は全額払いが原則とされている
- 例外が認められる場面は限定的である
具体的に、会社が一方的に天引きできるのかを見ていきます。
「賠償金だから」という理由だけでは、天引きの正当化にはなりません。
給与という性質上、控除には厳格なルールが定められています。
会社が一方的に天引きしてよいのか?
会社が一方的に賠償額を給与から差し引くことは、最高裁判例でも認められていません。
同意なく天引きを行うと、それ自体が別の法的トラブルを招く可能性があります。
一方的な天引きは、たとえ実損害の請求であっても認められない点に注意が必要です。
- 一方的な天引きは最高裁判例でも否定されている
- 同意のない控除は別の法的トラブルを招く
どうすれば天引きが可能になるのか?
労使協定を締結したうえで、社員本人の自由な意思による同意を得ることが必要とされています。
同意書の取得を省略してしまうと、後から天引き自体が無効と判断される可能性があります。
社用携帯を紛失したらクビになるのかで紹介した内容とあわせて、手続き面の正しい理解が求められます。
管理体制の不備はどう影響するのか?
管理体制の影響は、会社側の落ち度が賠償額の減額理由になり得ることです。
社員だけに責任を負わせる発想では、公平な賠償ルールとはいえません。
会社側の対策状況も、賠償額を判断する重要な要素として考慮されます。
- 会社側の落ち度も賠償額の減額理由になる
- 対策状況が公平な判断材料として扱われる
具体的にどのような管理不備が問題となるのか見ていきましょう。
日頃の運用の積み重ねが、いざというときの賠償額に影響してきます。
小さな管理の抜け漏れが、後々大きな争点に発展することもあります。
画面ロックを設定していなかった場合はどうか?
画面ロックなどの基本的なセキュリティ対策を会社が指導していなかった場合、会社側の管理責任も問われやすくなります。
社員の過失だけでなく、会社の管理体制も同時に問われる構図になっています。
この構図を理解しておくことが、公平なルール作りの前提になります。
- 会社側の管理不備も同時に問われる構図
- 一方的に社員を責める運用は信頼を損なう
- 画面ロック未設定は会社の落ち度にも
- 管理責任は双方に及ぶ可能性がある
紛失防止策を講じておくとどう変わるのか?
MDMの導入やリモートロックの整備など、事前の紛失対策を講じておくことで、会社としての管理責任を果たしやすくなります。
対策を講じていた事実自体が、トラブル時の説明材料にもなります。
こうした投資は、賠償トラブルの予防という意味でも十分に価値があります。
- MDMなどの対策投資が管理責任を果たす手段になる
- 予防投資はトラブルコストの削減にもつながる
ここまでの内容を踏まえ、具体的なルール設計の考え方を整理します。
判例と管理体制の両面を踏まえたルール作りが、トラブル防止の近道です。
どちらか一方だけを見て設計すると、抜け漏れが生じやすくなります。
賠償ルールはどう設計すべきか?
ルール設計の考え方は、固定額ではなく実損害を基準にすることです。
固定額を定めてしまうと、労働基準法16条に抵触するリスクが残ります。
実損害を基準にすることで、ケースごとの実情に応じた対応がしやすくなります。
- 固定額の明記は労基法16条のリスクを伴う
- 実損害基準なら実情に応じた対応がしやすい
誓約書にはどう記載すればよいか?
法人携帯の料金プランを比較する際にあわせて、誓約書には「故意・重過失の場合に応じた実損害の範囲で請求する」といった表現を検討するとよいでしょう。
固定額の明記を避けることで、法的リスクを抑えやすくなります。
条文をあいまいにしすぎると、今度は運用時の判断がぶれる原因になります。
- 誓約書には実損害基準の表現を用いる
- あいまいすぎる条文は運用のぶれを招く
社員への周知はどのように行うべきか?
入社時研修などで賠償ルールの考え方を説明しておくと、いざという時のトラブルを防ぎやすくなります。
入社時の周知は、後々のトラブルを未然に防ぐ有効な手段です。
書面だけでなく、口頭での説明を添えることで理解が深まりやすくなります。
- 誓約書は実損害を基準に記載する
- 入社時研修での説明が周知を後押しする
それでも実際にトラブルが起きてしまった場合の対応も確認しておきましょう。
事前準備をしていても、トラブルがゼロになるわけではありません。
万が一の場面での初動対応が、その後の展開を大きく左右します。
実際にトラブルになった場合どう対応すべきか?
トラブル時の対応は、まず社内で冷静に事実関係を整理することです。
感情的な対応は事態をこじらせるだけで、解決を遠ざけてしまいます。
事実関係の整理を怠ると、後の交渉や手続きが不利になることもあります。
- 感情的な対応は事態を悪化させやすい
- 事実関係の整理が交渉の土台になる
専門家に相談すべきタイミングについても確認しておきましょう。
自社だけで抱え込まず、外部の知見を活用する視点も重要です。
判断に迷った段階で相談することが、結果的に費用の節約にもなります。
社労士や弁護士に相談すべきタイミングはいつか?
高額な損害が発生した場合や、社員との交渉が難航する場合は、早めに社労士や弁護士へ相談することをおすすめします。
自己判断で強硬な対応を取ると、かえって会社側が不利になることもあります。
専門家を交えることで、感情論に流されない冷静な判断がしやすくなります。
- 高額な損害は早めの専門家相談が有効
- 自己判断の強硬対応はリスクが大きい
最後に、再発防止のためにすべきことを整理します。
同じトラブルを繰り返さない仕組みこそが、真の意味でのリスク対策です。
一度の事例を教訓として活かせるかどうかが、会社の姿勢を分けます。
再発防止のために何をすべきか?
今回の事例を踏まえて社内ルールを見直し、同様のトラブルが再発しないよう対策を講じることが重要です。
再発防止の仕組み化が、長期的なコスト削減にもつながります。
一度きりの対応で終わらせず、仕組みとして定着させることが大切です。
- トラブル発生時はまず事実関係の整理から
- 再発防止の仕組み化が長期的コストを下げる
最後に、今回の内容を改めて振り返っておきましょう。
一つひとつの積み重ねが、無理のない賠償ルールにつながっていきます。
社員と会社の双方が納得できる形を目指すことが、何より大切です。
まとめ:「社用携帯を紛失した際の損害賠償請求」
社用携帯を紛失した社員に対して全額の損害賠償を請求できる法的根拠はなく、判例上は損害額の25%程度が現実的な上限とされています。
給与からの天引きも一方的には行えないため、ルール設計と社員への周知を並行して進めることが重要です。
今回のポイントを、改めて簡単に整理しておきます。
- 賠償ルールは固定額でなく実損害基準にする
- 管理体制の整備が会社側の責任軽減につながる
- 全額請求は判例上ほぼ認められない
- 給与天引きには同意や労使協定が必要
- 会社側の管理体制も賠償額に影響する
経理の現場で数多くのコスト管理を見てきた立場から言えば、賠償を厳しくするより紛失そのものを防ぐ仕組みに投資すべきだと感じています。
自社の賠償ルールを今一度見直し、必要であれば専門家への相談も検討してみてください。
この記事を最後まで読んでくださった皆さまに深く感謝するとともに、紛失時の不安が少しでも和らぎ、気持ちよく働ける職場づくりにつながることを願っています。
- 実損害基準のルール整備が信頼につながる
- 紛失予防への投資が最も確実な対策になる


